


鳥取から日本一を目指す。アジフライカンパニーを訪ねて。
突然ですが、アジフライ、好きですか?

サクッとした衣と、口の中に広がるアジの旨み。
ソースをかけたらいくらでもご飯が食べられる、大人も子どもも大好きな揚げ物のひとつですよね。
ところで、このアジフライに全振りした会社が鳥取にあることをご存知でしょうか。鳥取で暮らした経験のある方なら、きっと知ってる、アジフライカンパニーこと角屋食品さんです。

角屋食品HPより
究極のアジフライと銘打った「鯵王」や、

みんな大好き、すみっコぐらしのキャラクター「あじふらいのしっぽ」とのコラボ商品など

アジフライに特化した商品展開をされています。
どんなこだわりがこのアジフライに詰まっているのか、またどうしてアジフライに振り切った経営をすることになったのか、本日はこちらでお話をお聞きします。聞き手はいつもの岸田です。

お応えいただくのは角屋食品 代表取締役社長 角谷直樹さん。

角谷さんは博士号を持つ生粋の理系。東京の大手食品会社に勤め、先代の跡を継ぐために鳥取に戻られたとのこと。継承の話を含め、さまざまな角度からお話をお聞きしました。
まずはそのこだわりのアジフライづくりの現場から。

最高のアジフライのために、手間暇を惜しまない。

岸田
原料のアジがいっぱい! これがアジフライになっていくんですね。
角谷
はい。地元の境港で獲れたアジです。工場が港のすぐ近くですから、水揚げがあった日に届けてもらいます。冷凍のアジも使いますが、今あるものは刺身にできるほど新鮮ですよ。
ただこのように、届いた段階では大きさがバラバラです。これをセンサーを使って、まずは大中小と分けていきます。同じタイミングで獲れたものでも全然大きさが違いますから。

岸田
確かに違いますね。
角谷
そうなんです。やっぱり自然のものですから、違うのが当たり前。これを商品化するまでにどう均一化していくかはメーカー側の努力ということになります。
仕分け後は、アジの”ぜいご”と呼ばれる硬いウロコを機械で取り、「開き」の状態にしていきます。

角谷
開きにしたあとに残った、骨やゼイゴもペティナイフとハサミで一匹ずつ取り除いています。

岸田
すごい手際の良さ……。機械でおろしているかと思いました。
角谷
やっぱり骨の取り残しなどを防ごうと思うと、人の手が確実ですね。この作業は先代の頃から手作業でやっています。
岸田
そこからさらに計量されていますが、最初の仕分け後に再度チェックしているんですね。

角谷
はい。大きさや重さにはかなり気を使っています。
たとえば、飲食店の方が業務用で一箱買ったとするじゃないですか。お昼の定食にアジフライを出そうと。でも、あっちのお客さんと、こっちのお客さんで大きさが違うってなるとクレームになりかねないですよね。
だからうちでは複数回の計量を通して、全枚数を5g単位で判別しています。
岸田
全枚数をチェックしているんですか!
確かに当たり外れがあると不安になりますが、5gの差を管理されているのは本当にすごいです。それにしても、みなさんすごいスピードで全く躊躇ありませんね。
角谷
若い方も多いのですが、みなさん私の100倍は早いです(笑)。
パン粉付け作業はもっとすごいですよ。

写真では分からないですが実にスピーディーに衣が付けられています
岸田
早い!!
角谷
人の手だけで、毎日2万5千匹のアジにパン粉を付けています。
岸田
とんでもない数ですね……。これは機械化しないんですか?
角谷
他社さんはほとんど自動だと思いますよ。でも、うちのアジフライは衣が薄いんです。アジの肌がうっすら透けるほどの衣率。これは機械ではできない。
尻尾を持って、バッター液に漬けすぎないように注意して、パン粉を固めないようにふんわり仕上げる。熟練の人間の手でないと、この品質を保ちつつ、大量に作ることはできません。

岸田
ここまで人の手が入っている生産ラインとは思いませんでした。
角谷
生産性や効率は常に高めていく必要がありますが、何よりも大事なのは味。
せっかくなのでぜひ食べてみてください。

出来立てのアジフライを

ザクっと

美味しい!
岸田
わ! ザックザク! そしてパン粉がおいしい!!
脂も乗って実にジューシー。衣が薄い分、アジの旨みを十二分に感じられます。これが自宅でも楽しめるのは本当に贅沢ですね。
あの作業のひとつ一つがこの味に繋がっていると思うと、手間も納得です。
どうしてアジフライカンパニーに?

岸田
先ほどは美味しいアジフライをご馳走様でした。
さっそくお話をお聞きしたいのですが、まずはアジフライカンパニーを掲げて、アジフライに特化したことについて聞かせてください。元々は水産加工会社として、さまざまな商品を取り扱っていたとのことですが。
角谷
そうですね。以前は相当な数の商品を扱っていました。団子とか、煮付けとか、ハンバーグなんてのもありましたね。それぞれ売上もあったのですが、常に生産ラインがギリギリなんです。ときには社長自身がラインに入らないと回らないぐらい。
理由は明確で、商品に合わせてラインを組み替えていたんです。団子つくったら変更、ミンチ作ったら変更、ハンバーグ作ったら変更。その度に掃除もしなければいけないし、商品ごとに特殊な機械が必要になればさらに時間がかかる。これは効率が悪い。朝から晩まで同じものをつくりたいと考えた結果でした。
岸田
それがアジフライだったんですね。

角谷
まず主観として、私が食べて一番おいしかった。そして客観的に言うと、すでに売り上げの半分ぐらいはアジフライだったんですよ。
私が営業もしてたんですけど、こうやって机の上にいろんな商品並べて提案するじゃないですか。一応どれもおいしいですねって言ってくれるんですよ。でも、最終的に商売に繋がる確率が高いのはアジフライだったんです。ニーズがあったんですね。
もう一つは採用です。鳥取の労働人口が減り続けている中で、水産加工会社と見られるのはあまり得策じゃないと感じました。もっとエッジを立たせたい。水産加工の角屋食品ではなく、アジフライカンパニーの角屋食品という切り口の方が面白がってもらえるのではないかという狙いがありました。

岸田
なるほど。社員からの迷いはありませんでした?
角谷
社名を変えたわけではないですからね。抵抗はなかったと思います。ただビジョンは新しくしました。大きく言えば、「日本一のアジフライカンパニーになろう」というもの。
でも、多くの社員はそんな途方もない、何言ってるか分からないって思うだろうから、まずはアジフライと言えば角屋食品と言われるようになりましょうと。CMもはじめ、自分たちはアジフライカンパニーだという発信も広げていきました。

岸田
CMを始められたのは8年前ぐらいですよね。
ただアジフライを揚げているだけ。ジュワジュワジュワみたいな油の音とアジフライカンパニーっていうのが衝撃的でした。あのCMって、芸能人もいないし商品名もなくて、本当に美味しそうな油で揚げる音だけなんですよ。頭から離れないです(笑)。

公式YouTubeチャンネルから https://www.youtube.com/watch?v=vhtgm7E_LtA
角谷
ありがとうございます。このシンプルさというか、潔さが、アジフライカンパニーをよく表現してくれていると感じています。
実はこのCM、週に3回流してるんですよ。需給規模からしたらあり得ない出稿量です。でも、それはもう本当に今のビジョンを達成するため。それぐらいやらないと、人に覚えてもらえないんです。
大山を超えて、自由に生きたかった。
岸田
お話をお聞きしていると、ひとつ一つの判断にきちんと背景というか、納得感があります。博士号を持たれているとお聞きしましたが、角谷さんのここまでのキャリアをぜひ教えてください。
角谷
私はずっと理系畑なのですが、一番最初のきっかけは、中学生の頃にバイオの世界に憧れたことです。細胞とか遺伝子とかDNAとか。
ちょうどここに教科書があります。こういうのを読むことがカッコイイみたいな時期があったんですよ。

DNAの螺旋構造の図
角谷
そのままこの世界にのめり込み、もっと学びたいと地元の高専に入りました。そして卒業論文の際に師事した先生の影響で大学に編入し、その後大学院に進学。より深く研究の道へと進んでいきます。
本当は、そのまま研究者になりたかったんですよ。でも、ポストの競争率が高くて諦めて。それじゃ研究職で働ける民間で就職しようと入社したのが味の素です。ここで約9年間働きました。
岸田
その選択は、実家が食のお商売をされていたことと関係ありますか?
角谷
いや、まったくないですね。そもそも角屋食品は、父が2006年に創業した会社です。私がちょうど味の素に入社した年。それまで普通の会社員でしたから、連絡をもらって驚いたぐらいですよ。

岸田
一緒にやろう、とかそういうお誘いは?
角谷
なかったですね。家業を継ぐ気もありませんでした。生粋の研究者としてやっていきたいと。
今だから言いますが、私は、あまり鳥取が好きじゃなかったんですよ。良くも悪くも村社会だと思ったし、家も狭かった。自分の部屋も空間もなかったですから。
鳥取には大山(だいせん)という大きな山があります。学生の頃は、あの山をずっと超えたかった。県外に出て一人暮らしして、悠々自適に暮らしたかった。当時の夢がそのまま叶ったわけではありませんが、都会で、名のある大手企業の研究者として働いている。その道を外れようとは思いませんでしたね。

岸田
それでも、鳥取に戻り、会社を継いだんですね。
角谷
父が病気になって、呼び戻されました。でも、不思議と後ろ髪を引かれる思いがなかったのは、やっぱり親父が好きだったんでしょうね。戻ってすぐに腹を括りました。
そして帰ってきた時に、私がやったことのひとつが、すべての商品の原価計算でした。さっきのアジフライに絞る話にもつながりますが、今のままでは採算性がよくない、利益率がよくないみたいな話を父にぶつけてね。生来の合理性が全面に出たんでしょう。
そしたら、先代に久々に怒られました。「利益利益ばっかり言うな!」って。病床にあるのに、大きな声でね。本当に珍しいことです。その時は反論しませんでしたが、心の中で(会社の目的は利益じゃないか)という疑問はありました。ずいぶん、青かったんだと思います。

合理と不合理を抱えて、続けていくこと。
岸田
でも、会社が利益を目指すのは当たり前のように感じます。
角谷
もちろんその通りです。でも、決してそれだけではないと今は思います。
たとえば、地方で営むちいさな食堂があるとします。手頃で美味しい定食を出してくれる、地元に愛されるお店です。借金はあるけど返済はできている。利益は残らないけど雇用もしている。地域のみなさんにも求められている。もう、それだけで十分に存在意義がありますよね。

角谷
一方、上場企業の方だと一株あたりの利益や時価総額を最大化するのが当然の正義のように考えます。でも、当期純利益をそんなに積み上げて何するんですか? ということを考えていない人も多い。数字を積み上げていくだけではなく、そもそも会社とは何か、仕事とは何か、という根本的な部分を考えることが重要ではないかと思うのです。
岸田
なるほど……。そういった考え方は、科学者だった頃とは違うものですよね?

角谷
そうですね。研究者だった頃の私では出てこない考えだと思います。
実は、私が後を継いで1年目か2年目にすごく悩むことがありまして。利益最大化だとかROEがどうとかやってきたけど、本当にこんな経営でいいのだろうかと迷ったんですね。そこで、ご縁があったビジネススクールの恩師を訪ねたんです。先生、どうすればいいんでしょうか、と。
そのときに渡されたのが「生命と自由」という本でした。

角谷
これね、一行目からよく分からないんですよ。「私たちが生きるこの現実を生命と自由という観点から捉えることはできるのではないか、生命と自由こそは現実をこのようなものたらしめているのではないか。本書はこのような発想のもとで書かれた」……もう意味分かんないですよ(笑)。
でも、読み進めていくうちに、自分が悩んでいた部分が、実は哲学的な問いであったと気づくわけです。そして徐々に合理性だけでは測れない世界が現れてくるんです。
主観は非合理なものかもしれない。でもそれが世界であり、それを理解して、向き合っていかなければいけないものだと。その頃から、徐々に私の経営スタイルというか、スタンスが固まってきたように感じます。

岸田
だんだん、講義を受けている生徒のような気分になってきました(笑)。
そういえば、角谷さんは鳥取で経営者に向けた「学びの場」を開校されていますよね。大変お忙しいと思うのですが、どうして続けられるんですか?
角谷
危機感ですね。さっき言ったように、会社とは何か、働くとは何か、みたいなところを追求していくことに興味があるのですが、現在鳥取県内ではどんどん会社が倒産しています。JA、タクシー、さらには百貨店。最近ではコンビニも潰れたりしてる。これが続いていくと、社会全体がどんどん地盤沈下していくし、つまらない街になってしまう。
でも、お店がないと困るからなんとかしてくれと言っても、そこに経済合理性が働かないと無理なわけです。現在の鳥取県の人口は52万人ほど。しかも減り続けている。そのような局面になった時、やっぱり会社ってインフラを支えていると思ったんですよ。

角谷
縮小していく地域での新陳代謝は期待できない。だとすれば、今現存する会社が走り続けないとこの地域は永続しない。長く続けるためにはいろんなアプローチがありますが、私は一応教育者でもあるので、教育を通じた解決を目指すために「学びの場」を創出することを始めました。
決算書も読めるようになるし、管理会計を実践することもできる。そして理想としては、学びの重要性に気づいてくれて自律的に学んでもらえたら……と。遠回りかもしれませんが、そういうことを実現するための『とっとり経営会議』ですね。完全に手弁当ですけどね(笑)。

岸田
鳥取県が主催しているものですよね。私もぜひ参加しようと考えています!
それにしても、若い頃は鳥取が好きではない、という話もありましたが、今は地元への貢献に力を入れているんですね。
角谷
それはやっぱり、戻ってきた時に腹を括ってますから。
地元貢献という意味では、アジフライの日※に学校給食にアジフライを提供したりもしています。子どもたちにうちのアジフライを食べてもらいたいし、地域の方に感謝される会社になれることが、まずは従業員の満足度につながっていきますから。
どこまでいっても、私たちは鳥取に根差した会社です。地元の人に知られていて、あそこいい会社だよと言ってもらえる会社にしていくことがとても大事なんじゃないかと思っています。
※3月21日。「鯵」の「参(さん)」と、21日の「フ(2)ライ(1)」の語呂合わせ。角屋食品が申請して制定

岸田
同じ地域に根ざす会社としてとても参考になります。
最後に、今後の角屋食品の展開について、お話しできる範囲で教えてください。
角谷
アジフライを売る、ということは変わりません。ただ、その価値をもっと高められないかと様々な角度から検討しています。
そのひとつは機能性素材の開発です。頭とか内臓とか、アジフライにならない部分から製品を作っていけないかと。アジって結構栄養成分が豊富なんですよ。そこから健康食品の素材を作っていければという思惑ですね。研究者の原点に戻って取り組んでいます。
収益化はまだまだ。でも、新規事業って産みの苦しみがあります。社長が先頭に立って、誰よりも熱心にやらないと社員は納得しません。だからいつも現場にいってますよ。私の白衣が一番汚れていますから。
岸田
なんだかイキイキされていますね。どんな研究成果が生まれるのか、とっても楽しみです。
またぜひゆっくりお話し聞かせてください。本日はありがとうございました。
角谷
こちらこそありがとうございました。

取材を終えて

鳥取にいると必ず耳にする「アジフラーイ カンパニー♪」というメロディ。
水産加工会社ではなく、会社を代表する商品「アジフライ」に特化するという経営方針は、漬物屋でなく「らっきょうカンパニー」を目指す私たちにも大きな目標となる会社さんです。今回角屋食品さんをおたずねしたかったのは、私が角谷社長のファンであるからというのも大きな理由でした。研究者である角谷さんの経営についてのお話がとてもおもしろくて今回聞かせていただき、ますます師となりました。
何よりもスタッフの方の商品への丁寧な作業、圧倒的なスピードやコンビネーションは感動でした。こんな丁寧な製法だからどれを食べてもおいしいのは納得です。私たちも角屋食品さんのような丁寧な個性を大事にする会社を目指していきたいと思います!


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