全国のスーパーから大根が消えても、たくあんは止めない、絶対に。河島本家の覚悟の味。

ポリポリと小気味いい音を奏でるたくあん。

 

決して目立つ存在ではないけれど、食卓には欠かせないお漬けものの定番です。

同時に、とまりのつけものを営む泊綜合食品にとっては、とても縁深い商品でもあります。

泊綜合食品の創業は昭和24年ごろと言われています。

 

故郷である鳥取県の泊(とまり)村で作られていた大根を、創業者 岸田武雄が「地元の人に誇れる特産品を作りたい!」と考え「たくあん」に加工して販売したのがはじまりでした。当時は青果としての大根を出荷していましたが、「泊の大根が出荷されると関西の相場が動く」と言われるほどの評判。それをさらに汎用できるよう、「たくあん」に加工して広げていったのです。

 

その後、より多くの人々に鳥取の美味しいものを届けたいと食品卸事業が始まり、全国の漬けものの取引が開始。現在の泊綜合食品の基盤となっていくわけですが、今でもたくあんは大切な主力商品のひとつ。さまざまな産地のたくあんを取り扱っています。

 

なかでも、とりわけ長いお付き合いをさせていただいているのが、和歌山県の河島本家さんです。

河島本家さんといえば、紀の川漬やべったら漬け。昔ながらの手法で作られた伝統的なお漬けものです。

昔から、ずっと変わらない味。この「いつもの味」が食卓にある安心感が、ずっと愛されている理由のひとつなのでしょう。

同時に、取引先としての絶大な安心感も。それは、決して商品を切らさないこと。

 

近年で印象的だったのが2022年。この年は猛暑だったためか、全国的に大根が不作でした。どこをさがしても大根がない。大手スーパーさんでも野菜売り場に大根がない、という異常事態が数日間続いたので、記憶に新しい方もいらっしゃると思います。

大根がなければたくあんは作れません。うちでも多くのたくあん商品が欠品となりました。でも、そんなときでも河島本家さんは切らさないんです。いつもと変わらず商品を出してくれる。

 

とってもありがたい話なのですが、不思議な気持ちは残りました。大根はないはずなのにどうしてだろう・・・。

そんな「?」を胸に秘め、河島本家さんにお伺いしました。

変わらぬ味、変わらぬ製法で。

河島本家さんは紀ノ川と道路を挟んですぐ。

お伺いしたのは夕暮れどきで、美しい川の様子が印象的でした。

ここから見える工場はほぼすべて河島本家さん。

さっそく、たくあんの製造現場に入らせていただきました。

工場長の中谷さんにご案内いただきました。

お話をお聞きすると、味や製法は昔からほとんど変わっていないとのこと。

大根の出来具合によって細かい調整はしつつも、昔ながらの味に仕上げるのが腕の見せどころとか。長く愛される味を守り続けていることがよく分かります。

工場を見せていただきつつ感じるのは、機械化は進みつつも、人の手がずいぶん入っていること。大根という自然のものを扱うため、規格に自在に合わせられる人が一番効率がいいんですね。

大根といってもさまざまな大きさがある中で、瞬時に色んな規格に合わせて切り分けていく判断力と正確さは熟練の技。

箱詰め前の確認も、人の目で厳しくチェックされます。

そうして出来上がった、河島本家さんのべったら漬。

味を想像するだけで、すぐにでもご飯がほしくなります。

日本の食卓に欠かせない、たくあんを食卓にお届けし続ける河島本家さん。

丁寧な仕事から生まれるたくあんに今まで以上の信頼を感じるとともに、これを大根不作のときも継続されてきたことに一層の興味が湧いてきます。

 

この思いを、河島本家 代表取締役の河島 歳明(としあき)さんにお聞きしました。
(以降敬称略です)

インタビュアーは泊綜合食品の岸田です。

商品を切らさないのは、社長の仕事。

岸田
さっそくですが、去年の大根不足、大変でした。

 

河島
もう、むちゃくちゃですわ。去年、一昨年と2連発くらいましたからね。一昨年は8割の出来だったでしょ。去年7割しかできてない。本来、大根はそれなりに安定して収穫できるんですよ。台風が来れば別ですが。

 

岸田
やっぱり気候変動影響ですかね。

 

河島
そういうのと、あとは農家の世代交代にも関係があるんじゃないですかね。

 

世代交代して、お子さんが継いでね。例えば面積をたくさん作った方が儲かるぞ、ってどんどん畑を増やしていく。そりゃ大きい方が効率がいいでしょう。

で、温暖化が進んで熱い日が続く。夏、お盆が過ぎたぐらいから大根の種を撒き始めるでしょ。焼けたところに巻いたら種も焼けちゃうから、当然水撒かないなんですよ。でも人手が足らないから水撒きも間に合わない。加えて害虫問題もある。殺虫剤を撒いて早めに処理をしたらいいんですけど、面積が広くてとても手が回らない。

 

そういった事情も相まって、ここ数年の大根の不作となっているんじゃないでしょうか。

 

岸田
それでも、河島本家さんはたくあんを切らしませんでしたよね。

うちでも他の商品は結構止まってて。でも大根がないから仕方ないね、って思っていたんですけど、河島本家さんのはある。あれはすごいです。

河島
前兆もありましたね。ちょうど去年の正月すぎかな。新潟の取引先から連絡があって「大根の相場がすごいことになる。(在庫が)なくなるの覚悟しといてください」ってね。まだ正月だぞ!って驚いてね。

稲刈りが始まる前の8月下旬から9月上旬に種を蒔き、雪が降る前の10月から11月にかけて収穫されるのが普通なので、正月は収穫が終わったばかり。

どうやら収穫する本数が極端に少ないと。例年なら7000本いけるところが5000本しかいけない。そうなったら2000本どこかで買わなあかんわけですよね。さあどうしようと。

 

全国探してみると、どこにもない。で、ないはないけど、ある地域で大根を出している農家があるらしい……という話があって。

 

3月の終わり。大根の一番ないシーズンですわ。でも、出してくる。なんでやと。どうやって作ってんのよと。もうそうしたら聞きにいくしかない。向こうの組合行ってね、一杯飲みながらどんな種使ってるとか撒き方とかいろいろ聞いて。で、自分とこが契約している畑で試してみて、これならいけるとなんとか確保したんです。

岸田
すごい! そういう買い付けの決断はぜんぶ社長がされるんですか?

 

河島
だって、例えば大根キロ1000円で値がついたら1万トン1000万円ですよ。一回の取引で。それも加工して販売するずーっと前に買わないといけない。しかも生もので早い者勝ちの世界です。

 

たとえば、ある朝5時頃に電話がかかってきたりするんです。市場からね。半分ぼーっとしながら、おーおーおーどうしたん?って聞きながら。で、話をすると大根が大量に余っとると。どうする?(買うか?)と。計算とかじゃない。そこはもう長年の勘ですわ。即答で買ってね。それからすぐに市場の大根が壊滅状態になったりしたこともある。

 

でもそういう判断を従業員にやらせるのは酷ですよ。もし売れなかったら、そのあと豊作だったら……と考えると、この決断は社長がやるのがいいじゃないですかね。

国産にこだわり続ける覚悟

岸田
大根は生鮮だし、そのときどきの判断がすごく重要になるのはよく分かります。

ところで、河島本家さんといえば国産大根というイメージがあります。海外、特に中国産はリーズナブルで量も安定するかと思いますが。

河島
15年か20年ぐらい前ですかね。中国製品がどっと入ってきたことがあったじゃないですか。確かに安いし量もある。同業でも飛びついたところたくさんありますよ。だって国内で売られていた頃価格の10分の1とか入ってくるわけですよ。信じられます?

 

そりゃ加工とか手数料もかかるけど、仕入れりゃ儲ける。これからは中国産が日本制覇するぞ!みたいな勢いで広がりました。

 

でもうちは使わなかった。中国の畑にいったら分かります。僕は現地にいって、向こうの農家さんと話しました。使っている農薬や畑の小屋まで入ってみました。ちゃんとやっているところもあった。ひどいのは一部ということは分かりました。

 

でも、これはね、分からんぞと。まずいところから入る可能性も十分にある。だから使わないでおこうと。従業員にも我慢せえと。長いこと我慢しましたね。銀行に融資をお願いしたときにも「中国産を使ったらどうですか?」と言われるぐらいですからね。

岸田
どこから風向きが変わったんですか?

 

河島
産地偽装の事件がいくつかあったでしょ。あの辺りからガラッと変わっていきましたね。ニュースになって、たくさんの人が騒いで。消費者も産地に目が行くようになった。

中国産に切り替えたところはずいぶん辞められたんじゃないかな。それから国内の農家さんに戻ってね。うちの農家さんのところにも来ましたよ。大根を売ってくれって。一本も売りませんでした(笑)。

 

岸田

(笑)。国産へのこだわり、よく分かりました。

そのこだわりを持ちつつ、大根を切らさないことを守るのは大変ですよね。その姿勢って昔からなんですか? それとも社長の代から?

河島
いや、うちの親父からですね。ただ親父はね、ちょっと僕より賢かったんで。市場にね、大根が少なくなってきたらわざと止めるんですよ。で、在庫が切れるじゃないですか。でもうちは冷蔵庫あるから。どのタイミングで出すか。勝負はそっからですわ。

 

ただ、そういう商売っけは、その前の代、おじいちゃん(創業者)の頃からそんな感じだったみたい。確か昭和29年ぐらいだったかな。当時は冷蔵庫なんて珍しくて。和歌山でも市場に一個しかなかった。でも、おじいちゃんが50坪ぐらいの冷蔵庫を建ててね。そのシーズンの人参を放り込んだんですよ。

 

で、狙ったように人参が不作になって。ワンシーズンで冷蔵庫代をペイできるぐらい儲かったみたい。今はそんなうまくいくことはないけど、商品を切らさない、というのは変わんないね。

 

岸田
河島本家さんは切らさない、という安心感はすごいです。

うちも大根不作のときは、卸先に「他の商品はありませんが、河島本家さんのはあります!」と答えていましたから(笑)。

 

河島
でも、たまに従業員が無茶な注文受けてきたりするのよ。決まった期間、決まった数量を出すみたいな契約でね。しかも大根が少ない時期だったりして。このやろ、なんて時期に受けるんだ、って言うけどさ、受けた以上はやり切るしかないよね。

 

もう意地だよね。絶対に切らさない、という意地。

 

岸田
その意地を貫き通す姿勢、よく分かりました。

これからも頼りにしています。本日はありがとうございました。

 

河島
こちらこそありがとうございました。

取材を終えて

毎日のように岸田家の食卓に並ぶ本家さんのべったら漬けですが、今回初めてお伺いして想像以上の社長や会社さんの想いを感じました。大根の栽培から農家さんと一緒に携わって、市場を読み、たくあん業界を動かされているその勢いに圧倒されるばかりでした。まさに命を懸けてたくあんづくりされている!その姿勢を感じさせて頂いて、その大切なたくあんをお取り扱いさせて頂いていることへのありがたさと責任感をあらためて感じました。

 

岸田いずみ

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