日本の食卓に、キムチを広げた立役者。高麗食品のキムチ三兄弟。

みなさん、キムチは好きですか?

 

ピリッとした唐辛子の辛味と、その奥にある旨味。

白菜はもちろん、大根、豆腐、きゅうりなど幅広い素材に合う相性の広さ。

単品ではもちろん、炒め物、鍋物、麺類などなど……。

和洋中といったジャンルの垣根を越えて、実に幅広く愛されている漬けものです。

でも実は、ほんの30年ぐらい前まではキムチというのはとってもニッチな漬けものだったこと、ご存知でしょうか?

 

当時の呼び名は「朝鮮漬け」。

製品表示のカテゴリーにもキムチは存在せず、「白菜醤油漬け」や「白菜塩漬け」といった表記でひっそりと売られておりました。

 

それが気づけばスーパーの漬けものコーナーの20%超がキムチになるほどに。私たち漬けもの業界の人間も、これほどあっという間に漬けものシェアが変わったことに驚きを隠せませんでした。

このキムチの躍進を支えたのは、全国で美味しいキムチをつくる在日韓国人の皆さまでしょう。でも、あえて一つメーカーを挙げるとしたら、、、大阪の高麗食品さんです。

 

関西のキムチ好きの中では、知らない人の方が少ないのではないかという人気ぶり。

特に「黄さんの手造りキムチシリーズ」は、月間販売個数約40万パック売れるヒット商品とのことで、手に取られたことがある方も多いのではないでしょうか。

泊綜合食品でも、お客様からキムチのご要望があればまず頭に浮かびます。

 

今回はこの高麗食品さんに、その味の秘密と、キムチがここまで広がった背景についてお話を伺ってみました。

お話をお聞きする相手は、高麗食品のキムチ三兄弟として有名なこの3人。

黄 鍾守(ファン ヂョンス)さん 代表取締役社長:長男

黄 仁守(ファン インス)さん 専務取締役:次男

黄 成守(ファン ソンス)さん 工場長:三男

インタビュアーは泊綜合食品の岸田です。

韓国のキムチはどうしてこれほど日本で広がったのか?

岸田

今日はキムチ三兄弟の皆さまお揃いで、ありがとうございます。

昨年はテレビにも出演されて大活躍ですよね。

 

黄 仁守(ファン インス)

2023年の6月でしたか。「TBSのバラエティ番組キムチの世界」でね。ほんとありがたいことです。

テレビでは弟(黄 成守)がキムチの作り方を喋って、僕はもっぱら営業担当でお話しさせていただきました。

岸田

番組はもちろん拝見させていただいたのですが、驚いたのが高麗食品さんのキムチをほとんど紹介されないこと。東海漬物さんとか、宗家キムチさんとか、他社さんのキムチを紹介されていたのがすごく印象的でした。

 

黄 仁守(ファン インス)

いえいえ、僕らのに限らずキムチが注目されるのは嬉しいことですし、業界として盛り上がればそれが一番ですからね。

岸田

キムチ業界としての盛り上がりは本当に感じます。

私が小さかった頃は、キムチって全然メジャーじゃなかったですよね。食べた記憶も少ないです。でも、今やスーパーで見かけないことはないし、泊綜合食品でもかなりの割合をキムチが占めています。

 

黄 鍾守(ファン ヂョンス)

おっしゃる通り、昔はえらいニッチな商品でしたね。朝鮮漬けと呼ばれていた頃です。

うちは祖母が大阪市生野区で台車にキムチを載せ行商を始めたのが1970年。それを母が受け継ぎ、1976年にキムチ専門店を開業したのが始まりです。

昔ながらの味を守りながら商売を続けていたんですが、当時は地域に住む在日韓国人にしか売れなかった。それで試行錯誤をしてね、日本の人が食べやすい味を模索しながら、少しずつ広がってきましたね。

 

岸田

食べやすい味というと、いわゆる和風キムチですか?

 

 

黄 成守(ファン ソンス)

そうそう。あれが出てきた頃、僕らは兄弟で「あんなのキムチじゃない!」って言ってました(笑)。

でも、やっぱり食べやすいんです。唐辛子が苦手な人はもちろん、子どもだって食べられる。

僕らはもっとたくさんの人にキムチを食べて欲しかったから、和風キムチが受け入れられたことはすごい追い風だったと思います。

国内有数のコリアンタウンの発展

黄 仁守(ファン インス)

あと、大阪の鶴橋がすごいですよ。うちはそこでお店出しているんですが、今や大阪でも有数の観光地になってるんじゃないですか?

 

特にここ5,6年すごいです。土日とか身動き取れませんから。こんな人どこから来たんだろうってなりますよ。毎週初詣みたいです。

コリアンタウンといえば、東京の新大久保が有名ですが、あそこは普通の食べ物屋さんが多いんです。でも、鶴橋はキムチ屋さんが多い。韓国コスメのお店も多いですが、キムチ屋の多さはちょっとすごいですよ。メイン通りだけでも、50軒以上あるんじゃないですか。

 

岸田

50軒以上!? すごいですね!

 

 

黄 鍾守(ファン ヂョンス)

あの辺りは、昔朝鮮市場と呼ばれていたんです。韓国の民族衣装とか、法事で使われるものを売っててね。ちゃんとしたお店じゃなく、いわゆるバラックでした。結構駅から遠いしね。

 

でも、キムチ目当てのお客さんが増えてくると、駅からの通り道にどんどんお店が増えてくる。人が増えたらビジネスチャンスですから。韓国料理、韓国コスメ、もちろんキムチ屋も。

岸田

それだけたくさんキムチ屋さんがあっても、ちゃんと成立しているのがすごいです。

 

 

黄 成守(ファン ソンス)

キムチって、日本のお漬け物に比べるとずいぶん味が広いと思います。

きゅうりの漬けものを想像しても、せいぜい数種類じゃないですか。でもキムチの場合、見た目が一緒でも全然違ったりする。

発酵のタイミング、唐辛子の量、副原料との配合バランス。

 

 

この組み合わせでまったく違う味になります。

唐辛子一つとっても、日本産、中国産、韓国産で味が違うし、挽き方でも変わる。副原料のにんにく、しょうが、魚醤、アミエビなどの量によっても変化します。

 

 

50以上あるキムチ屋さんも、ぜんぶ個性がある。そのお店の違いをお客さんが楽しめるのが、キムチの良さのひとつだと思いますね。

高麗食品の味とキムチの可能性

岸田

キムチ屋さんがひしめく中で、高麗食品さんはどんな味に特徴があるんでしょうか?

 

 

黄 成守(ファン ソンス)

うちはあっさり系です。

にんにくなど香辛料を効かせるお店もあるけれど、強い味だと主張しすぎるじゃないですか。うちのキムチは、あくまで脇役。ご飯がすすむ、箸がすすむような味付け。母が決めた味です。

もちろんパンチがあるのが好きなお客さんもいます。先味が弱い、と言われることもあります。

 

でも、それは好き好きですし、長いことずーっとファンでいてくれる人もいます。

自分たちのベースとなる味は守りながら、もっといろんな人に食べてもらえるように、毎日試行錯誤してますね。

 

 

黄 仁守(ファン インス)

弟はね、暇さえあれば何か(新しいキムチを)作ってるから。

黄 成守(ファン ソンス)

最近はサーモンにチャレンジしました。鳥取産のやつですよ。陸上養殖しているサーモンを使って、冷凍食品にしてみたりとか。サーモンとキムチってすごい合うんです。

 

 

岸田

そうなんですか!? 食べてみたいですね。

それにしても、キムチって本当に幅広いですよね。どこまでをキムチと呼んでいいのか分からないぐらいです。

黄 成守(ファン ソンス)

キムチの定義は一応あるんですよ。「塩漬けした野菜、海産物に唐辛子を使用した」みたいなやつが。

 

でも、たとえば韓国の水キムチってご存知ですか? あれ唐辛子使ってないんですよ。それってどうなの(笑)、って矛盾もある。

あんまりキムチの枠を決めてしまうより、自由に発想したほうが面白いんじゃないですかね。

 

キムチって漬けものに限らず、ラーメンでも鍋でもいける。最初の入り口がこんなに広い漬けものって他にはないですから。

 

 

黄 仁守(ファン インス)

いつか、高級な贈答品とか狙ったみたいですね(笑)。

 

 

岸田

いいですね! 高級キムチ、私たちも高級らっきょうチャレンジしたいです!!

今日は色々はお話を聞かせていただいて、キムチがより好きになりました。

本日はありがとうございました。

 

 

三兄弟

こちらこそありがとうございました。

キムチ三兄弟の皆さまと

取材を終えて

会社へお邪魔する前から、三男の成守さんの工場長日記は読ませて頂いていました。

 

キムチ屋に生まれたのだから当たり前と言われるのでしょうが、本当にキムチを好きで、研究したりお好きなんだなぁというのが伝わります。

 

実際に会社にお邪魔させて頂いて、色んな販売店さんで喜ばれるのが分かる気がしました。お店からのスタートされて、このお店でしか作れない味を追求され、でも一方でお母さんの教え(味)を大事に、メインの食材と一緒に楽しむという立ち位置は変わらない。その上で、いろんな土地に合わせての味を研究されたり、食材を試されたり、いかに美味しいものを作り出すことの楽しさを改めて教えてもらった取材でした。

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