日本一の梅、南高梅の地で。伝統的な製法を守る、中峰農園の梅干し。
日の丸弁当の中心であり、
おにぎりの具の代表格であり、
名前を聞くだけで生唾がジュワッとあふれ、
漬けものと聞かれたら真っ先に名前があがる筆頭候補と言えば……
そう、
梅干しです。
日本古来から受け継がれてきた伝統的な漬けものであり、
私たちの食卓にはもちろん、漬けもの屋としても、なくてはならない梅干し。
もちろんとまりのつけものでも取り扱いしております。
キムチをはじめとする新しい漬けものはどんどん登場してきますが、
いつもの梅干しって、そこにあるだけで安心感が出ますよね。
そんな、もはや説明の必要もないほど暮らしに馴染んでいる、
梅干しが今回の産地探訪のテーマです。
舞台は、梅干しの生産量全国NO.1である和歌山県。
梅好きの方には言わずと知れた「南高梅(なんこううめ)」の産地ですね。
この地で、梅干しと向き合い続けた2つのメーカーさんから、
今どきの梅干し事情や製造方法など、色々と聞いてみたいと思います。
季節は2024年新春。
例年より早い梅の花に驚きながら、まず訪れたのは、
伝統的な梅干しの製法を守り続けてきた「中峰農園」さん。
中峰農園の梅干しができるまで。
さっそく、梅干しづくりの現場を見せていただきました。
まずは元となる原材料の倉庫から。
見渡す限りの梅樽が並んでいます。ここからは見えませんが、奥にもびっしりと立ち並んでいます。数千樽もの梅の実が、梅干しになるのを今か今かと待っている光景は、なかなか見られるものではないですね。
ちなみに、梅は採れたその年に漬けることはなく、1年から数年は寝かせてから使うとのこと。
数十年モノというビンテージ物も眠っているのだとか。
樽を開けてみると……
中には塩漬けされた梅がぎっしり。
白い粉は塩の結晶です。業界では塩カビと言うことも。
長い時間をかけて保存すると、最後には塩がガラス片ぐらいの大きさになるとか。
もちろん、このままでは食べられません。
これはあくまで保存のための塩漬け。
実際に梅干しにしていくには、まずは塩抜きが必要です。
冷たい水で塩を洗い落とすと、
干からびた梅が水分を吸って、ツヤツヤ、ぷっくりした梅があらわれました。
なんだかもう美味しそうですね。
そしてここから味を決めるための漬け工程。
ずらっと並んだ大型ケースの中には、味の種類や時期で分けられた、漬けられ途中の梅が収められています。
中はこのような様子。梅が浸かっている液は、定番のシソはもちろん、まろやか、甘めなど、さまざまな味。配合はもちろん企業秘密です。
十分に味が染み渡ったら、ケースから出して乾かします。
触らせていただくと、しっとり、ふんわり。
上等な南高梅ということが分かります。
そしてここからは梱包作業。
皮が破れたものを取り除き、大きさを選別して、
ひとつ一つ、丁寧に包装していきます。
パッケージをつければ、
完成!
見慣れた梅干し商品の姿ですね。ごはんが欲しくなります。
さて、ここまで中峰農園さんの梅干しづくりをダイジェストでお届けしました。
ここからは引き続き宇井さんと、代表取締役の中峰さんにお話を聞いていきたいと思います。
梅干しメーカーがひしめく産地の強さ
岸田
工場をご案内いただきありがとうございました。
なかなか見ることができない現場で、貴重な体験でした。
中峰
いえいえ、わざわざ鳥取から来ていただいて。
岸田
中峰さんにはぜひ行きたいと思っていたんです。
うちで扱っている漬けものといえば、だいこん、奈良漬、らっきょうなど色々ありますが、やっぱり梅干しは欠かせないなと。そして梅干しなら中峰さんだなと。私、中峰さんのシソ梅のすっぱい味が大好きで。
中峰
そうですか。嬉しいです。
シソ梅は昔からの味で、これが好きな人はずーっとこれですね。私も好きで、いつも食卓にはシソ梅だったのですが、最近ははちみつです(笑)。
岸田
やっぱり今は甘い方が人気ですか?
宇井
塩分が気になる方が増えてはるんでしょうね。うちのシソ梅の塩分も、昔は8%だったのが、今は3%が主流です。昔は「はちみつ梅は邪道だ!」なんて声もあったものですが、シェアは確実にはちみつや減塩のものに移ってますよ。
岸田
私は塩分8%のしょっぱい梅干しが大好きなので、甘いのはちょっともの足りないのですが……それも時代なんでしょうね。
ところで、味付けはこの地域独自の特徴とかあったりするんでしょうか?
宇井
うちがある田辺(和歌山県田辺市)には、大体200ぐらいのメーカーがあります。これは全国でもトップクラスの数でしょう。大きいところ小さいところで特徴は分かれますが、そのすべての梅干しが独自の味付け。だからメーカーごとにファンがついていて、ここの梅干しじゃないと、という方がいらっしゃります。
ちなみに梅干しの味は、大きく3つのパラメータが関係していると思っておりまして。それは、「甘み」、「旨み」、「塩味・辛味」です。ここを微妙に調整していく中で、それぞれ自分たちの味を追求しているんですね。
南高梅は、日本一だと思います。
岸田
200もメーカーさんがいらっしゃるのは知りませんでした。さすが日本最大の梅の産地ですね。
そして、紀州といえば南高梅です。今や高級な梅の代名詞となりましたが、どうしてここまで人気になったんでしょうか?
宇井
やっぱり美味しいからじゃないですか?
私、いろんな産地にいって食べさせてもらったんですよ。どこの梅も綺麗で、見た目は素晴らしい。でも食べてみると、肉質、皮質がどうも物足りない。食べれば食べるほど、南高梅が一番や、日本一やと実感するわけです。もちろん贔屓目はありますけどね(笑)。
岸田
確かに南高梅は美味しいです。でも、どうしてそんなに他と味が違うんでしょうか?
宇井
もちろん品種はあります。粒が大きく、皮が薄いとか。ただ、他の地域にも同じ品種の梅はあるんですよ。でも、この辺りと比べて味が全然違う。収穫システムが違うんです。
普通は、樹上になっている梅を手もぎして、塩漬けします。これはこれで結構なんですが、いかんせん未熟な状態での収穫になりますからね、どうしても味が落ちる。
南高梅は、完熟し切って、落ちたものを拾う。
目一杯太らせてるから美味しいんですな。
岸田
なるほど。でも、それなら他でも真似できそうですけど?
宇井
単純に大変なんですわ。完熟した実ですから、落ちた日に拾わないと虫がついたり腐ったりする。
落ちた日イコール収穫日。そしてその日に塩漬けする。これがもう本当に大変で。
樹上の実をもぐのと違って、落ちるタイミングは梅次第でしょ? 拾うそばから新しいものが落ちてくるわけです。朝拾って、昼拾って、夜拾って。ずっと中腰でね。腰も痛くてたまりませんわ。時間との勝負ですから、ピーク時は眠れないこともあります。
手もぎで慣れた農家さんに、これを強制することはできませんよ。でも、この辺ではそれが常識ですから。何年も何十年も、ずっとこれでやってきたわけです。その時間が積み重なって、南高梅の価値が高まってきたんだと思います。
歴史が裏づける、贈答用としての価値。
岸田
南高梅の秘密が、少しだけわかった気がします。
ちなみにこの辺りではいつ頃から南高梅をつくられているんですか?
宇井
発祥については戦前だったか、戦後だったか、ちょっとはっきりしたことは分かりません。
ただ、昔から紀州の梅というものはありました。でも推しの梅をなんにするかは決まっていなかったようですね。いくつかの候補から選んで、そして南高梅に決まったんですわ。
今でも受粉用に他の品種の枝もありますが、商品としてはほぼ南高梅のみです。
岸田
そして今では日本一の生産量。紀州の気候にも合ったんでしょうね。
宇井
南高梅は温暖な気候に合うと言われています。
あまり知られていませんが、福井や鹿児島などにも南高梅あるんですよ。ただ、どうも紀州以外ではうまく育たないようで、一本から取れる量が全然違います。
だから県内消費でとどまり、県外には出てこない。でもうちは一本で400キロぐらい採れますからね。北海道から沖縄まで、日本全国津々浦々のスーパーに置いてある南高梅は、大体はうちの地域のものなるんです。
岸田
はー。他の地域より圧倒的な収穫量と、他では真似できない収穫システム。
それが南高梅なんですね。贈答用として喜ばれるのも納得です。
宇井
贈答については、もともと紀州の梅は徳川への献上品だったという歴史も関係しているかもしれませんね。一般に根付いたのはむしろ最近じゃないですか。バブルの時代は、年末とか眠れないほどの大忙しだったとか。
岸田
贈答用の漬けものは奈良漬が有名ですが、今は梅が主流ですからね。他の漬けものメーカーさんからすると、ギフトに使える梅は羨ましいと思いますよ。うちもらっきょうで検討したこともあるんですが、どうもらっきょうだとハードルが高くて(笑)……すいません脱線しました。
今日は色々と教えていただきありがとうございました。
梅干し、もっと好きになりました。
中峰・宇井
こちらこそありがとうございました。
取材を終えて
完熟した梅が落ちた日イコール収穫日、すぐその日に塩漬けする。中峰農園さんの美味しいふわっふわの梅干しができるまでには手間と愛情がかけられているのが改めて感じられました。南高梅が南高梅たる所以も知ることができた今回の産地探訪。
地域の気候を大切にして、地域の味を多くの梅干し会社さんが大切にされていることを感じながら、一粒一粒の旨味を感じたいと思います。(岸田)
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